予想外というほどでもないが、こんなところにまでデフレの影が?


娘たちの性@思春期外来 (生活人新書)

娘たちの性@思春期外来 (生活人新書)

今日読み終えた。2007年刊だが、最近どんなジレンマさんが良いレビューをエントリしていてそこで知った。当該エントリをざっと読むだけで本書の要点は概ね押さえられるが、大した分量の本でもないので、手に取って読んでみる事をお勧めしておく。
産婦人科医という専門家の立場からこういう発言をしてくれる人は貴重だ。ただあえて一言−−ぼく自身を例にするなら−−父親として中学生の娘に「セックスするなら避妊しなさい」だけでは済まないような気がするのだ。それは容易に「出来ちゃったら堕ろせば良い」という発想になるかもってことだ。
もちろん著者がそういった部分を無視しているとは思わない。あくまで本書の主旨は現場の医師でもあり性に関する知識の普及活動にも従事する著者が、「娘たちの性」のひどい現状を経験に基づいて語り警鐘を鳴らすことであり、その目的は十二分に達成されている。だから本書が啓蒙してくれる知識をふまえた上で、父親として中学生の娘にどう向き合うかを自分で考えなければいけないと思った。


感想はこれぐらいにして、本書が引用しているある調査データを見ていて気付いた点について考えてみたい。
本書P31〜32の「中高生の学年別性交経験率の推移」というデータだ。東京都が3年ごとに実施している調査で、男女別にグラフ化されている。そのままスキャンとかするのは気がひけるので、高校生の部分のみグラフをつくってみた。


中高生の学年別性交経験率の推移(縦軸は%、横軸はもちろん暦年)


1990年を底に上昇、96年頃に落ち着き、1999年近辺にかけて急上昇し、2002年から05年にかけて落ち込み、08年にまた急上昇。続いてのP33のこの記述と考え合わせてみると、何かお気づきではないだろうか。

 実は90年代半ばに、ある地方の高校へ性教育講演に出向いた時、そこの生徒たちの性交経験率の高さに驚かされたことがあります。そこで、接待してくださった教頭先生に質問してみました。
 「こんなに高いのは、なぜでしょう」
 すると、即答されました。
 「他に楽しみがないからですよ」


一般的な認識がどうかはともかく、少なくとも半端経済学徒のぼくの認識としては、1990年といえばバブル景気の絶頂、その後91年ごろにバブル崩壊から不況へ突入し、95〜96年ごろ調整が終わって景気が落ち着くも、98年に再び景気悪化、2001年に最悪期を迎えた。その後賛否両論あるが02年から06年にかけては景気回復期で、ご存知リーマンショックがあったのは08年のことである。断言はできないものの、高校生の性交経験率が見事に景気変動と連動しているように見えるのだ。
好況期には大学進学でも就職でも希望が見えて、つまりセックス以外にやりたいことや、やるべきことがいくらでもある。だが不況になると進学を諦める生徒が増え、頑張ってもまともに就職できそうもない、となるとまあ、他にやることないよね的な状態になるのは理解しやすいだろう。*1

実は、本書の刊行年は前述の通り2007年であるので当然、08年分のデータについては掲載されていない。調査を実施した、東京都幼・小・中・高・心性教育研究会(都性研)の最新データから引っ張ってきたものだ。

 この高校1、2年生の男子と女子に起きた経験率の急降下が一時的なものなのか、それとも今後も続くのか、もちろん余談を許しません。
 でも、私たちはこの変化に希望を見いだし、次回の2008年の調査を期待を込めて見守りたいと思っています。

こう述べている著者にとっては、残念な結果になるだろうなというのはデータにあたる前にある程度予想はしていたが、それにしてもこの08年調査の経験率の上昇は露骨だな、という感じ。当然、10代の妊娠や性感染症も急増している可能性が高い。著者も今頃は忙しい日々を送っているのかもしれない。


「10代の性の乱れが〜」などといった物言いがされることが増えてきたのは1995年前後からだったという著者の見解は、ぼくの記憶とも一致する。当時は、親がダメになったとか、メディアの影響とか、ジェンダーフリーが悪いとか、その都度いろんなものがやり玉にあげられては集中砲火を浴びていた。
だが真相は、もっと単純でわかりやすい「経済状況」という原因だったのではないか、ということと、単純でわかりやすいなら、なんとかする(念のためいっておくと、一概に10代の性交経験率が上がることそのものが悪いといいたいわけではない。まああまり面白くはないが。)のも簡単なはず*2だ、ということも主張しておきたい。

おまけ

データを探してぐぐっている最中にひっかかった記事。

高校3年生の性交経験率5割「落ち着け、まだ半分だ!」 | 日刊アメーバニュース

 ネットでは「落ち着け まだ半分以下と考えるんだ!」「信じないぞ、俺は信じないぞ」「あれ…PCの画面がなんだか霞んで、ちゃんと見えないや」とショックを受ける声や、「男女差がほとんどないってのは、健全だってことだね」と冷静に分析する声、「ここまで来ると童貞であることに誇りが持ててくる」などの意見があがった。

景気回復すれば、性交経験率が下がるというデータを示せば、ネット上のアンチリフレ派が宗旨替えしてくれるかもw 味方にするとたよりないんだけどww

*1:高3だけ経験率の落ち込みがゆるやかなのは、経験上?理解できるよね。ね。

*2:それが簡単でないのが日本という国の困ったところではあるのだがorz