日本の若者の安定志向は「甘え」なのか?

終身雇用制度を望むか聞いたところ、73.5%が「望む」とし、調査開始以来、初めて7割台に乗せ、過去最高となりました。また、将来の進路の方向性についても、「管理職として部下を動かし、部門の業績向上の指揮を執る」という管理職志向が過去最高の40.5%。さらに、これから働くうえでの「意気込み」も、49.0%が「地道にコツコツ働きたい」といった結果がでています。安定志向の高まりとあわせて、雇用調整が進む昨今にあって、会社に依存しようとする意識さえ見られます。


2009年度新入社員の会社生活調査〜調査報告書|産業能率大学


調査報告であるにもかかわらず、「会社に依存しようとする意識」という部分に調査者の本音が見え隠れしている。こういう数字が若い社会人たちが弱くなった証拠のようにいわれ、「ゆとり世代」問題とからめて「いまの若い奴って使えねぇ」みたいな言われかたをすることさえあるようだ。
でも90年代なんかは、フリーターの若者もふくめて、安定志向をバカにする風潮すらあったわけで。実際この調査でも2000年前後までは、終身雇用を望む割合はどんどん下がり続けて50%近辺まで低下している。90年代の不況があっても、いやむしろ不況だったからこそ若者たちは、もう会社には頼らない、雇用流動化だこのやろうとか言っていたんだよね。


たぶん彼らが、IT系に代表される、新しい雇用形態の企業に進出していってそれなりに栄えれば*1年功序列で終身雇用な「古い」企業が徐々に駆逐されて(あるいはそういう雇用形態を捨てて)いったことだろう。そうなるためには経済の安定的な成長が不可欠だが、十数年間それが無かったってだけのことだ orz*2
実際には、90年代を過ぎ2000年代にはいっても延々不況で、駆逐されるはずの年功序列で終身雇用な企業のほうが相対的に好調みたいな状況になってしまった。学生や新社会人たちから見れば、なんだ古い会社のが強いじゃん、みたいな学習効果があったんじゃないかな。
また、別の要因のひとつとして2000年代前半のネットの発展はあると思う。掲示版のブラック企業情報なんかがそうだけど、IT企業とかいっても安定雇用じゃないから、一握りの成功者以外のふつうの連中はひどい目にあってるんじゃんという認識が広く共有されちゃった。もちろん情報が広く共有されるのは悪い事じゃないけど。


今の若者たちは、年の近い先輩たちが犠牲をはらって得た経験から学習しただけのことで、弱くなったわけでも甘えてるわけでもないし、ゆとり教育とかはなおさら関係ないと思う。

でも、どのみち雇用は流動化するわけだが……

こういう若い日本人たちが「雇用の流動化」というキーワードをどう受け止めるのか心配になった。最近も「派遣禁止」とか言ってるのを説得するのにえらい汗かいたわけだからね。グローバリズムが否定できない以上、雇用の流動化そのものは絶対に避けられないのに、若い連中が「んなことしたら終わり、だってここ10年を見ろよ」と言い出す。かれらを説得するにはどうすればいいか。5年でも10年でも経済成長(それもちょっと加熱気味くらいのレベルで)を続けるしかないような気がする。でないと、「失われた10年+α」のツケがどれほど重いか、これから思い知らされることになる。

*1:ほんの一瞬だけど、そういう時期もあったね(遠い目で)。

*2:経済の安定成長があれば、そういう古い雇用慣習に守られてきた団塊世代前後の人々にも比較的穏便にご退場いただくこともできたろう。