道州制はいいんだけど、到底実現しそうにないってのがね……
- 作者: 高橋洋一,長谷川幸洋
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2009/02/26
- メディア: 単行本
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奥付にある発行日が2009年3月11日で*1、読み終わったのが一昨日のこと。対談本だから読みやすいのは確かなんだが、こんなに早く読み終わったのは久し振り。積ん読しまくりな上に、読書は何冊か同時進行というクチなので。
内容的には、やっぱり聞き役がプロだと面白くなるもんだな、って感じか。高橋氏自身が「まえがき」でのべているが、政策そのもの論ではなく、政策ができあがる過程の話が面白いというかとんでもない。財政制度等審議会(財政審)における学識経験者と財務官僚の議論が全部ヤラセとかね。
長谷川 しかも、多くの識者の発言が官僚の「振り付け」によるものだったのかと思うと、馬鹿らしくなってくる。最初から役割も発言も割り当てられている。この「振り付け」を私自身もされたことがありましたからね(苦笑)。*2
高橋 たしかに財政審で振り付けされていない委員なんていないだろうけど、正直に「私のこのときの発言はすべて『振り付け』でございます」と言ったら、新聞・週刊誌のいいネタになるでしょうね。
時間を割り振って、議論の盛り上がりなど関係なくすべて計画通りに進行させる。財政審は「発言は何時何分から何分まで」と分単位で決まっているでしょう。それを外れると、仕切る側は大変だからね。
長谷川 たしかに、財政審は一回2時間から2時間半ぐらいですが、そのタイムスケジュールが分単位で書かれた進行表が、全員の手元に配られます。そして、そのなかでみんなが「演じる」。
(一部、漢数字を算用数字に改変しました)
こういう審議会に新聞の論説委員クラスが名を連ねているんだけど、役人の「振り付け」どおりに踊らされて(しかも役人に内心はバカにされながら)、よく平気でいられるもんだ。こんなふうに鈍感だから、社説でおかしなことばかり書くようになっていくんだろう。
で、道州制だが、これまではどうかなって思っていたけれど、提唱する高橋氏自身、「中央集権よりは地方分権のほうがマシ」という程度の認識であることがわかった。地方に税源委譲したところでろくでもないことに使うだけになる可能性も認めているみたいだ。
国が行ったほうが効率的なこともある。国防とかはよく言われるけど、金融政策、財政政策もそうで、年金も国がやったほうがいいことの一つ。今、消費税を年金など社会保障目的税にしようという意見があるが、これも地方に税源を移譲したくない財務省のプチ陰謀*3の疑いが濃厚だ。
高橋 年金が国で管理すべきものである以上、「消費税を年金の財源にする」ということは、これからもずっと国税であるという宣言にほかならない。これは財務省が仕掛けた巧妙なトラップです。
仮に消費税を年金に充ててしまうと、財源不足で道州制の実現は不可能になるはずです。先ほど述べたように、国から地方へ15兆円の税源委譲が必要だとします。現在消費税は13兆円です。そう考えると地方の財源として消費税がなければ、予算の組み立ては困難を極めるでしょう。マスコミも政治家も官僚の仕掛けたこのトラップに全然気付かない。
(漢数字を算用数字に改変しました)
消費税こそもっとも税収が安定的で地方が使いやすいわけで、これが年金目的にされたら移譲不可能になってしまうと。
で、消費税が地方税になったとして、地方(道州+基礎的自治体)*4がやったほうがいいのは、社会福祉、医療、教育、治安維持を基礎的自治体が、規模的に基礎的自治体では難しいインフラ整備、産業政策、農政、観光政策を道州が、といろいろあるが、ここで強調したいのはインフラ整備、つまり公共事業。
今、小沢一郎の献金問題が自民にも波及してメディアはそれで持ち切りだ。いわゆる「政治とカネ」の問題がクローズアップされるたびに、「公共事業受注企業からの献金を禁止しろ」という意見がでてくるが、これって公共事業を地方が自分のカネでやれば解決しちゃうんじゃないか。
税源移譲したところで、無駄な道路とかハコモノだとかしか作れないかもしれないし、地方政治家と業者が癒着するのかもしれない。でも「国から引っ張ってきたカネ」ではなく、「自分たちが払った血税」が、欲しくもないインフラに化け、必要な施設は作られないとしたらどうだろう。また必要な施設ができても、仮に癒着まみれになればどうか。献金のぶんだけ施設の質が下がるか、利用料が上がることになるだろう。住民が怒り、そのろくでもない政治家が排除される確率は高くなるのではないかな。
問題は、実現可能性がかなり低いってことだな。
高橋 いまのところ、メディアはどこも口を揃えて道州制に賛成しているけれど、いざ道州制施行という段階*5になると反対に回るはずです。だから道州制に対しては国会議員も反対するし、都道府県や大都市の首長は反対する。さらに中央官庁も反対するから、ほとんどの人が反対することになります。
長谷川 中日新聞は中部地方のブロック紙ですから、ちょうど州単位とマッチして反対する必要はないかもしれない。ところが、静岡新聞などは発行地域が静岡県を中心に70万部以上も発行されています。両紙は静岡県内で競合しているけれど、やはり静岡県と愛知県である程度の新聞の棲み分けができてはいるんですよね。ところが州単位となって静岡県と愛知県が同じ州になれば、静岡県は中日新聞とこれまで以上に本格的に競合することになる。だから静岡新聞は、道州制に反対するかもしれません。他にもたとえば埼玉新聞は、東京都と埼玉県という県境がなくなれば、東京の全国紙に食われてしまいかねない。
(漢数字を算用数字に改変しました)
中央官庁や地方政治家が反対なだけならともかく、メディアも反対となるとかなりきびしいね、これは。orz
*1:奥付(=一番最後の著者名とかISBNなどの書誌情報が載ってるページ)にある発行日は、実際の発売日より1〜2週間後にするのが習い。
*2:長谷川幸洋氏は元財政審委員で、委員を辞めることになる経緯も本書で描かれる
*3:「陰謀論」、「陰謀史観」とかで使われる「陰謀」にたいして「プチ」。官民とわずあらゆる組織が自分の利益のためにいろんなことを企む。国際政治を裏から操るとかは眉唾だが、こういうスケールが小さい陰謀は掃いて捨てるほど存在する。「陰謀」っていうとすぐ脊髄反射されるので、ぼくがリアルでも使ってる言葉
*4:行政の効率を考えると、道州は人口1000万以上、基礎的自治体は30〜50万くらいの規模が理想なので、もっと市町村合併−−これはある意味「集中」だよね。「一極」や「中央」でないだけで。だからアンチ地方分権だけど、高橋分権論には一応賛成せざるをえない−−するのが前提
*5:施行というか政治日程に乗った段階だろうね