「与謝野財政」は日本史の教科書に載るか

 「マイナス12.7%ショック」は、ゆうべテレビの速報で知った。たしかフジテレビ。他局も速報打ったのかな。翌日の新聞の一面もこの件一色だったけど、こんな記事もあった。

 与謝野馨経済財政担当相は16日の記者会見で、景気の現状について「戦後最悪、最大の経済危機だ」と述べた。今後の対応に関しては「世界の国々が回復するのに足並みをそろえていく」と、追加経済対策の検討を急ぐ考えを示した。


与謝野経財相「戦後最大の経済危機」 | NIKKEI NET


 この人が本当に「戦後最悪」と認識しているのか、相当疑わしいと思った。世界に足並みをそろえるなら、よっぽど頑張らないとムリだし。消費税の増税にこだわってるのはこの人だし。出遅れどころか後ろ向きに走ってる感じだろう、むしろ。
 日経ほか一般紙の報道だけ見てると、あたかも直近の四半期のひどい数字をうけて何かやるという決意表明のようだが実際はそうではない。ブルームバーグにはもうすこし詳しい内容が出ている。

 与謝野馨経済財政政策担当相は16 日午前、昨年10−12月期の国内総生産(GDP)統計発表後の記者会見で、世界経済の急減速の直撃を受けて自動車などの「輸出の猛烈な落ち込みがあった」ことを挙げ、「戦後最大の経済危機だ」との認識を示した。


経財相:輸出の猛烈な落ち込みで「戦後最大の経済危機」 | Bloomberg.co.jp:日本


 ここまでは一緒。危機の原因を輸出の落ち込みのせいにしてるが、それはまあいい。

 「この数字を見て驚いてはいけない。この数字はある程度予測された数字だ」と指摘し、「1−3月もその後も連続して続いていくことを表しているわけでない」との見方を示した。


 はぁ? 予測って、それはいつの時点の? 去年の秋頃までは、世界金融危機の影響は日本では比較的軽微だとか言ってなかったっけ。

 今後の日本経済の見通しについては「日本経済が単独で好調な経済に向かうことはない」と述べ、「経済は国境がないので、世界の経済が回復するのに足並みをそろえて、回復していくことが普通の姿だ」と述べた。

 
 日経の記事にある「足並みをそろえて」はこっから来てるのか。って意味ちがうじゃねーかw。

 「直ちに追加経済対策という状況ではない」とし、09年度予算が成立するまで政府としては正式に検討しない意向を示した。

 
 「戦後最悪の経済危機」なんだろ? それでも「直ちに〜という状況ではない」? いったいどんな状況になったらこの人は慌てるんだろう。日経の記者は気を使って作文したのか、単に無能なのか。

 同相は米国をはじめとする世界の「過剰信用や過剰消費が正常化する過程で、世界的な大調整は不可避だとの見方がある」とした上で、日本もそうした「構造転換の痛みから逃れることはできない」と指摘。その上で、「この難局を乗り越えるには、国民を挙げた協力と挑戦が必要だ」と強調した。


 「過剰信用」はともかく、「過剰消費」という言い草にこの人の本音が見える。「そうした構造転換の痛み」が「過剰消費の"克服"」を意味するなら、この人のいう「難局を乗り越える」とは、内需拡大とかそんなものではない。それは1920年代井上財政さながらの「清算主義」なのかもしれない。
 大学の日本経済史の授業で、《時の蔵相井上準之助は、不況による財界の整理をはかった》*1などと教わった。意図的に不況放置って、戦前はこんなトチ狂った政策がまかり通ってたんだなぁ、とか思ったものがとんでもない、清算主義は、この血統正しい歌人の子孫の中にしっかりと息づいている。


 「与謝野財政」がどうなるかの予想を以前のエントリで書いたが、このままでは想像するだに恐ろしい時代が来ることになるだろう。井上財政のほうは、その後の高橋財政の成功のおかげで、せいぜい大学の経済学部でしか読まれない日本経済史の教科書で批判される程度で済んだ。*2果たして「与謝野財政」はどうだろうか。中学高校の日本史で言及されるほどの悪政となるのか。《時の経済財政相与謝野馨は、アメリ金融危機に端を発した世界不況のさなか均衡財政主義を貫き、消費税増税を断行した》*3とかって、洒落にならんな……orz.


追記


 中川(酒)氏が財務・金融担当大臣を辞任して、与謝野氏が兼任することになった。その後の国会等でのやりとりを見ていると、民主党の小沢・菅の両氏が与謝野氏に一目置くような発言があった。とくに日テレが変に粘着して、ポスト麻生にからめてこれを報じていたが、与謝野総理の目もあり得るのかもしれない。


 前回総裁選に出た以上、本人に総理への野心があるのは論を待たない。選挙の顔として消費税増税論者であることがネックという問題も、あのとき三年後増税の文言に拘ったことじたいが首相を差し置いての単なるスタンドプレーで、必要とあらばいつでも引っ込められるたぐいのものだろう。世論も財務省の財政危機キャンペーンのおかげか、消費税増税にそれほど反発していない。むしろ所得税をいじくるほうがよほど政治的リスクが高いのではないか。
 

  

*1:はっきり覚えているが、ほんとに「整理」と教科書に書いてあった。財界とは企業セクター、つまり人間が糧を得る場所のこと。それをまるでゴミか何かのように「整理」するとは、なんとも恐ろしい発想ではある。

*2:後の世で、「男子の本懐」とか言って持ち上げてくれる人までいたくらいだからねw。

*3:さらに《また、当時も各国で採用され効果を上げていたインフレ目標政策を「悪魔的政策」と呼び批判するなどした》とかw。