ゼロ金利回帰を拒む、「孤高=空気を読めない」日銀のスタンスが更なる円高を招く

▷▷▶ 『FACTA』2008年11月号 | 三歩先が見えぬ白川日銀:FACTA online


 これは紹介しておかずばなるまい。部数は小さいんだろうが、日本国内のメディアであからさまな日銀批判にお目にかかる事はめったに無い(「なんで利上げしないんだ」みたいな見当違いなものはナシね)なかでこれは貴重。
 アメリカでリーマン・ブラザーズの債券を組み込んだ、個人向け短期投資信託MMFマネー・マーケット・ファンド)が額面割れを起こし、他のMMFにも解約が殺到、清算されるMMFも出る状況となった。これをうけて米財務省が、本来元本保証がないはずのMMFを、元本割れを防ぐために預金並みに丸ごと保護する方針を打ち出したという。

 だが、MMFの丸ごと保護が、今度は銀行預金流出を招いた。預金保険の保障額の上限が一人あたり1千ドル(←10万ドルの間違いだね>ko_chan註)(約1千万円)だったため、不安を感じた個人や企業が危ない銀行から預金をMMFに移し替えようと一斉に走りだしたのだ。移し替え指南のブローカーは大繁盛である。


 標的になったのは、貯蓄金融機関最大手のワシントン・ミューチャル(WaMu)や米銀4位のワコビアWaMuは破綻処理されたうえ、JPモルガン・チェースに買収され、預金者は全額保護された。

 
 全額保護がかえって、預金の取り付け騒ぎを引き起こすという皮肉な結果に。

 米国で銀行預金からMMFへの流出が起きたように、預金全額保護を打ち出した国へ他国からマネーが雪崩を打つ。単一通貨ユーロのおかげで為替リスクの“国境”が消え、簡単に取り付けが起きるのだ。かくて戦前列強の経済ブロックのように、各国で預金保護を競い合った。


 しからば日本は? 米欧が預金全額保護で足並みをそろえた今どうするのか。日本には1千万円までしか預金保護がない。日本の高額所得者がこぞって全額保護の外銀預金に振り替えないという保証はないのだ。

 
 さすがに日本からの預金流出はないだろ、とも思ったが、円高を利してユーロを買おうという動きならあるかもしれない。日本でもマネーは結構偏在しているだろうから、富裕層がもし動けば怖いかもしれない。そういえばFXなんか、今さかんにテレビでCMしているしな。預金の海外逃避なんてことが現実に起これば、当局も預金全額保護にふみきるかもしれないが、そうすると今度は逆に、海外から預金が流入し、またまた円高になったりして。
 

 で、ここからが本番。海外が一斉に利下げするなかで、日銀の利下げ拒否スタンスが、株安に弾みを付けたと指摘した上で、こう来た。

 孤高、というより空気が読めていない。G7会議直前に中川昭一財務相・金融担当相が「0・1%利下げでも可能ではないのか」と首をかしげたが、そのとおりだ。14日に日銀は、物価連動国債(8日に入札中止)をオペで買い取ることや、CPによる資金供給などを決めたが、庭先を小ならしする程度。利下げや量的緩和は「経済状況に照らして判断」(白川総裁)と踏み込まない。


 しかし米欧の利下げは一度で終わらず、ゼロ金利に接近していけば、日本との金利差がどんどん縮小して円は独歩高になり、輸出企業は悲鳴をあげる。そのとき、日銀のしみったれは怨嗟のまとになるだろう。それからジタバタしても遅い。

 
 ぼくがぐぐった範囲では、日銀の金利据え置きをここまではっきり批判したメディアは『FACTA』以外には無い。上記中川財務・金融相の発言を取り上げた日本語メディアもおそらく皆無(このとき他メディアが紹介した中川発言は「日銀の判断を尊重する」だった。発言のどの部分を切り取るかで意味合いが正反対にもなる好例か)。
 こういうのをみせられると、日銀のメディア支配という陰謀論を信じたくもなってくるが、ここで予想。1ドル90円を突破するくらいの超円高になってようやく、「追い込まれ利下げ」「しかも0.25%だけ(苦笑)」に1億ジンバブエ・ドル