足利事件〜警察や司法のモラルを批判するよりも


足利事件、とりあえず菅家さんが外に出られた事は本当によかったと思う。
DNA鑑定の未熟さとかが問題視されているが、それ以前にこの事件の捜査はむちゃくちゃだった。目撃証言や状況証拠などと供述とのいくつものあきらかな食い違いを全部無視して、DNAだけで突っ走った結果の冤罪だった。「状況がおかしかったら、一番堅いブツ=証拠(この場合はDNA)を疑え」という格言もあるというのに、なぜここまで強引なやり方をしたのか。
菅家さんは当然国家賠償訴訟を起こすんだろうが、それはそれとして、外野が警察や司法を倫理的に批判してみても、たぶん今後にはつながらない。ではそこに構造的な問題を探すとすればやはり、捜査現場の人手不足だろう。

さて、日本の警察官の忙しさをご存じでしょうか。先進国の中でも最も忙しいと言えるかもしれません。警察官1人当たりが面倒をみる人口、いわゆる負担人口を国別に見てみると、日本がずば抜けて多いのです。欧米諸国が3百数十人であるのに対して、日本の警察官は511人を面倒見なくてはならないのです。


水曜コラム データから読む〜1人の警察官で511人の国民の安全を見ています | セキュリティ(防犯・警備)のセコム

「ナショナル・セキュリティ・ミニマム」とは、1950年代以来日本警察が目指してきた「最低限の治安維持力」のことである。
1億国民に対し、警察官一人当たり人口負担500人の20万警察官定数の確保がその目標値だった。この人口負担比は、
米 国  385人
英 国  395人
フランス 293人
など、サミット国と比較して決して多い数ではないが、これまで一度も達成されたことがなく、人口1億3千万の今日、警察官定数は22万8843人、一人当たり人口負担約551人と警察官の数が絶対的に不足している。
特に東京周辺の埼玉県警が760人を超え、茨城、千葉、栃木県警いずれも700人台で、ストーカー殺人事件、家出行方不明者問題などで応訴の初動措置が悪く、国民の信頼を失うような不手際は、この人口負担が欧米の2倍といった県警で起きていることも注目に値する。


治安維持、これからの10年〜佐々淳行 | JUSTICE LIBRARY


どうもこういうデータを探すのは苦手で、信頼性の点からするとちと微妙なソースになってしまった。だが数字そのものは間違いではないと思う。それはともかく、日本では、今回問題になってる栃木県などを含め、諸外国と比べ絶対的に警察官の数が少ないとは言えそうだ。
もちろん、米英などとは犯罪の発生件数が全く違うから人口あたりの国際比較など意味なかろうという反論は、おおいにあり得る。でも、よくいわれるように、日本の警官は夫婦喧嘩の仲裁や犬猫の死骸の始末までやらされたりしているわけで、一概に犯罪が少ないから負担が小さいとも言えないだろう。


で、日本の警察が絶対的に人手不足でありながら、殺人事件の検挙率は90%以上と抜群の数字を上げている、というより「上げなければいけない」のだとしたら、きっと現場にかかる負担は半端なものではないだろう。そういうプレッシャーが「目の前の容疑者が『もしかしたらシロかも…』とか考えてたら捜査なんかやってられねー」という精神状態に現場の捜査官を追い込んでしまうということはあるのではないか。「クロ」にするために都合の良い証拠だけ見て、それ以外はガン無視という今回の足利事件の構図は、構造的なものなのではないか。


これに対する一番わかりやすい解決策は警察官の増員だろう。しかし、データ探しの時に警察白書とかもみてみたが、近年のものは警察官一人当たりの人口負担についての言及がまったくない*1。「警察を取り巻く環境は厳しくなる一方*2」とかはぐちぐち書いてるのにね。どうも警察当局は、人はそれほど増やしてほしくないらしい。やっぱり財務省からの歳出削減圧力とかあるんだろうか。

追記(6/10)

警察白書のリンクを追加。第2節の「警察捜査を取り巻く状況」のところを読むと、建前ではあるにしろ、現在の警察当局が現状にどういう問題意識をもっていて、今後どうしたがっているかがわかる。

*1:昭和48年版!に諸外国との比較データがあったが、こんなの引用しても意味ないでしょうw

*2:市民に協力してもらえなくなったとか、ハイテク犯罪だの外国人犯罪が増えたとか。