まず経済成長を目指さんでどうすんのよ


 finalvent氏も取り上げているが、自民党税調において、消費税をめぐる対立が激しくなっている。finalvent氏が引用したのは朝日とNHKだが、どちらもイマイチという感じ。
歳出削減目標は維持 社会保障費抑制は調整 骨太の方針(asahi.com)
「おはよう日本」おはようコラム「消費税と2200億円問題」

 「これ以上削れない」という声を上げている人たちの中には、谷垣政調会長のように「だからもう消費税を上げるしか道はないんだ」という方向に世論を持って行こうと考えている人たちがいる。

 財務省→谷垣・与謝野ラインの思惑はまあこんなとこだろうね。

 消費税の引き上げより、徹底した歳出削減が先だと言って来た中川元幹事長は「毎年2200億円削るという国民に対する約束を破るのなら、解散・総選挙で民意を問うしかない」と言って猛烈に反発

 で、中川氏だが、上記のような発言はあったことはあったんだろう。でも、

 要するに「社会保障費を削り続けますか。それとも消費税を上げますか」ということですね

 おーいおい、なんでそんな整理の仕方になってしまうの。第一そんなこと言いながら解散総選挙なんかしたらボロ負け確実、「解散・総選挙」は議論のための議論で、本質は別のところにあるんじゃないの。
 中川氏ら「上げ潮派」の主張については、いつもはトンデモさんwな毎日のほうがちゃんと書いてる。この記事の政界再編云々の部分は、いつものヨタ話だから放っとくとして、重要なのは以下の部分。
読む政治:増税か、上げ潮か 自民、消費税論議が本格化(毎日.jp)

 中川氏が繰り返し説くのは「打撃順位論」だ。財政再建の手順として(1)デフレ克服(2)国の資産圧縮(3)歳出削減(4)霞が関制度改革−−を挙げ、増税は「5番バッター」。増税の前にやるべきことはあるという。中川氏が国家公務員制度改革基本法案の成立に向けて首相の背中を押しているのも、この文脈だ。

 この野球の打順にたとえるレトリックは、高橋洋一氏が出所かな。経済がデフレのまま、全体のパイが大きくならないままで、限られたリソースの分配をあーでもないこーでもないとやったところで意味は無い。これから医療も介護も年金も支出が増えるばっかりなのはわかってるくせになんでこうなるのよ。増税にいたっては、個人消費減を通じてさらにデフレを悪化させるだけで、現状では論外。

 実際、谷垣氏や与謝野氏、そしてその後ろで絵を描いていると思われる財務省は、5人のバッターのうち、3番と5番しかいないような顔をする。他の打者のことを言うと、「埋蔵金はない」とか、「インタゲは悪魔的」とか反論してくる。高橋洋一氏は新著でこんなことを言ってる。

 高橋 この中で、一番目の「経済成長(=デフレ克服)」が一番簡単なんだよね。「上げ潮」の名前の由来は、「ア・ライジング・タイド・リフツ・オール・ボーツ」という言い回しから来ているの。上げ潮になるとすべてのボートを上げると言っている。
 上げ潮といったって、名目成長率4パーセントぐらいで十分。みんなすぐできないと言うんだけれど、4パーセントとかは世界的に見るとそんな大した話じゃない。
 成長が1パーセント違うだけで毎年GDPは5兆円違う。政府が名目2パーセント成長なんて言っているけれど、「上げ潮」で4パーセントにすれば2パーセント違うから毎年10兆円違ってくる。
                 (中 略)
 どうして成長したくないの? と思うけどね。早稲田大学の若田部昌澄さんが、月刊誌に「財務省は経済成長が嫌い」と皮肉っていたけれど、そうかもしれない。
 たぶん、成長して税収が増えると歳出が増えるのがいやなのでしょう。歳出カットが財務省の責任みたいになるでしょう。成長しないと歳出増の要求は少ないんだよね。
 一方で、増税は政治家の責任になるから、財務省的には増税してもらったほうが楽なんだ。財務省は再建できればどっちでもいいんだけれど、どうせなら財務省の責任で歳出カットさせられるより、政治家の責任で増税して財政再建したほうが都合がいいんだろうね。

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)

霞が関埋蔵金男が明かす「お国の経済」 (文春新書)

 高橋氏の言から敷衍するなら、「社会保障費を削り続けますか。それとも消費税を上げますか」という言い回しは、財務省の思う壷。選挙はまだ先だから、結局は「消費税アップやむなし」が自民党税調において落としどころになってしまうだろう。NHKは「どっちも負担増じゃないか」と言ったのは良いが、もう一歩足らず、朝日はさらに一歩ツッコミが足りないということになる。
 いい加減に不毛な論争は終わりにできないもんだろうか、まったく。