現お笑いブームはなぜいまだに続いているのか

 

 現在のお笑いブームは、非常に息が長いが、「第五世代」というふうに呼ばれるようだ。ぼく的には「第◯次」という言い方のほうがなじみが深いな。


「お笑い第五世代(wikipedia)

 お笑い第五世代(おわらいだいごせだい)とは、日本において2000年代にブレイクしたお笑い芸人を総称した俗称である。別称「M-1世代」「エンタ世代」など。

 つまり、漫才ブームから数えて、第五次お笑いブームは、2000年から始まったとされている。NHKの「爆笑オンエアバトル」が1999年に始まったのが嚆矢だろう。

 2000年代後半となる現在、ブームは安定期に入っている。際物として飽きられた者、バラエティー番組におけるいわゆる「ひな壇芸人」やレポーターなどに居場所を確保する者がいる一方で、自らが司会を務めるレギュラー番組を持つ者も出てきている。ラーメンズのようにテレビと距離を置き舞台活動に力を入れる者、塚地武雅山崎静代、など俳優業で評価が高い者、劇団ひとりや田村裕など小説を発表する者も現れ、各々の活動は多様さを見せている。

 そうそう。何度も「お笑いブームはいつ終わるのか?」みたいな特集がメディアでも組まれ、終わる終わると言われながら、9年目の今年になってもしぶとくブームは続き、「いつ終わる」論議も近頃は聞かなくなった。
 記憶する限り、最初の漫才ブームも含めて、これだけの長期間続いたお笑いブームは無かったと思う。現ブームと過去のブームの間に違いがあるとしたらいったいなんだろうか。

 第五世代の芸人の多くは、幼少期にザ・ドリフターズの番組や『オレたちひょうきん族』に親しみ、十代の頃とんねるずダウンタウンの番組を見て育った世代である。団塊ジュニア世代と重なる1970年前半から半ば生まれが多い。ただし、ブームが長引く中で年若い世代が続々と台頭してきている。

 ぼくと同じ団塊ジュニア世代、この世代が主力となったことが、ブームを長期化させた要因ではないか。

 まず団塊ジュニア世代は単純に人数が多い。過去のお笑いブームを終焉させた要因として、その世代の芸人が出尽くし、後続が出てこなくなった結果、お笑いそのものが飽きられたということが大きいだろう。そもそも一人(一組)の芸人が純粋なお笑いを何年にもわたってハイレベルを維持することじたいがムリ。ほぼ例外無く出がらしになってしまう。だから、力のある者はみんな、司会者業などお笑いと別分野で生き残りをはかり、結果お笑い界の人材が払底するわけだ。

 団塊ジュニア世代は、人数のボリュームが大きい分、息切れした先行者が退場しても、あらたな人材をどんどん供給できた。この9年間というもの、毎年新しい芸人がブレイクしては消えていったが、それは逆に言えば、毎年毎年、ブレイクするだけの実力なりを持ったタレントをこの世代が供給できたということでもあるのだ。

 でも、単純に人数の多いことだけが原因かといえば、ぼくはもう一つあると思う。団塊ジュニア世代は、「就職氷河期世代」と言い換えることが可能だ。団塊ジュニア世代が社会に出たのは1996年から2000年くらいまでの期間、デフレ不況の真っただ中だ。ぼく自身その世代だが、まわりを眺めても就職活動戦線はまことに悲惨だった。この時期に就職できなかった者が大量に出た結果、お笑い界に流れ込む率が他の世代より多かったのではないか。

 デフレはいまだに継続中で、近年ははなっから就職を諦めてしまっている者も多い。だから2008年現在に至るも、お笑い界には新鮮な人材が後から後から入ってきているのではないだろうか。吉本興行のNSCに代表されるように、効率的な芸人養成のシステムが確立されてきたことも大きい。
 しかし、いくら効率的な製造工場をつくっても、そこにいい材料がたくさん入ってこなければやはりいつかは続かなくなるだろう。
 
 で、今後どうなるかはもう、予想するしかないが、ブームが下火になる要因をあえて考えてみれば、一時的に景気が上向いていた2002年から2007年頃に社会に出た、現在25歳以下の世代がポイントだろう。彼らは、団塊世代の大量退職の影響もあって、就職状況はかなり良かったはず。となるとこの世代からは、イキのいい人材が相対的に不足するかもしれない。この世代が芸人として育成され表舞台へ出てくるのはたぶん1〜2年後だろうから、そのころにお笑いブームが一つの曲がり角を迎える可能性がある。
 業界がここをうまく乗り切れば、それ以後の世代はまた就職氷河期に逆戻りだから、ふたたびお笑い予備軍は増えてくるのではないか。でも現在みたいに、お笑い番組が乱立し、芸人を次々使い捨てるようなことをしていると、思ったよりも速く限界が露呈するかもしれない。


 まあ、他人事といえば他人事なんだが、ここ1〜2年でどうなるか、注目していきたい。