そもそも軽量化がマズかったとは考えないのか?


 NHKクローズアップ現代」より。ちょっと気になったので。

クローズアップ現代」4月28日(月)放送 見過ごされた車両強度

 私たちが毎日使っている鉄道列車の強度について、今、日本で初めて国を挙げての本格的な研究が進み始めている。きっかけは、107人の犠牲者を出したJR福知山線脱線事故これまで日本の鉄道行政は「いかに事故を起こさないか」をテーマに列車制御装置の開発などに重点を置き、車両の強度について基準を全く設けてこなかった。鉄道事業者も軽くて燃費の良い、効率的な車両開発に重点を置いてきた。3年前の事故は従来の車両が衝撃に対していかに脆いかを露呈。国もようやく事業者や車両メーカーと共に研究会を設置。乗客を守る車両開発や新たな基準作りの検討を始めている。しかし、車両を強化すると莫大なコストがかかり、重くなってスピードなど効率性が損なわれるなど、課題も山積である。「事故を起こさない」という発想を転換し、「事故は起きるもの」として車両強度向上を模索し始めた日本の鉄道行政。その現状と課題を描く。

スタジオゲスト:井口雅一さん(東京大学名誉教授)

 引用した内容紹介文もだが、番組の論理展開はこういうことか。
 曰く、これまでの鉄道は、

  • 行政は「いかに事故を起こさないか」をテーマに車両制御装置の開発
  • 事業者は軽くて燃費の良い、効率的な車両の開発

に、それぞれ重点を置いた結果、

  • 車両の強度がないがしろにされてしまった。

と、言いたいらしい。でもちょっと待ってくれ。「軽くて燃費の良い、効率的な」車両、と3つも形容詞をつけてるが、そもそも車両を軽くすることで安全性にどう影響するのかが、まったく問われていない。軽量化そのものが、安全性をないがしろにしたのだという意見も業界の内外に根強くあるのだ。

尼崎事故・車両横転とボルスタレス台車 No.4(日刊動労千葉)

 これまで、車両の軽量化問題を中心として、いかに安全がないがしろにされてきたのかを見てきたが、尼崎事故を107名の生命を奪う大惨事に至らしめた最大の要因は、ボルスタレス台車にあったと考えられる。
 ボルスタレス台車とは、その名のとおり、軽量化のために「ボルスタ(枕ばり)」をとって、車体と台車を左右二つの空気バネで直接つなぐ構造にした台車の総称である。 国鉄ーJRでは、国鉄時代の末期にはじめて導入され、この10年余りの間に急速に普及するようになったが、重さ1tほどもあるボルスタを省くことで一気に軽量化を図ることができ、かつ部品点数が大幅に減ってメンテナンスコストを下げられるというのが採用の理由であった。
 (中略)またそれは、車両の重心を押し上げることも意味する。先にも述べたように、重心高さを抑えるためには車体側も軽くするしかなく、台車が軽量化されればされるほど、車体の軽量化も止めどなく追求されることになる。ボルスタレス台車の採用が車両軽量化に拍車をかける一因となったことは間違いない。

 このボルスタレス台車が採用された後に起こった事故が、営団地下鉄(現・東京メトロ日比谷線脱線事故だ。

 01年の日比谷線脱線事故ボルスタレス台車との関連が指摘されていたが、「最終的に事故との関連性は報告されておらず、メーカーや鉄道事業者に対しての指導や通達は行なっていない」(国土交通省)と、因果関係は闇に隠された。
 だが、営団地下鉄は、その後事故と同形台車の空気バネや軸バネ等を、輪重ヌケを抑えるように改良しており、実際上は台車に欠陥があったことを認めている。
 今回の尼崎事故でも、事故直後に、国土交通省の事故調自身が、「空気バネが異常な振幅を繰り返し、脱線を誘発した可能性が高い」(5月5日付毎日新聞/同サイトに紙面画像あり)と発表し、水平についているヨーダンパが垂直になって破損している写真を公表した。
 だが、最終的には事故との関係性を否定する報告書がだされる可能性が高いのではないかと思われる。なぜか。車体の軽量化問題もそうだが、それに触れることは、コスト優先で突っ走ってきた現在の日本の鉄道技術全体の根本的欠陥に触れることになるからだ。それは、国鉄分割・民営化以来20年間の鉄道政策そのものや、もっと大きく言えば、市場原理主義、民営化−規制緩和という基本政策にも連なる問題である。

 最後に国鉄分割民営化批判や、反市場原理主義につなげるあたりが、いかにもな感じはするものの、おおむねスジの通った話だと思う。

 クロ現に戻ると、ゲストの井口雅一氏は、福知山線の事故を調べた、国土交通省事故調査委員会の前身である旧運輸省鉄道事故調査検討会の座長だった人だ。
 VTRでも国交省の課長だかが登場して、「事故が起こる前提で『死ぬ人数を少しでも減らす』とは言いにくかった。だから『一つも事故を起こさない』という考え方になってしまった」などと話していた。さらにナレーションでも繰り返し「『車両を重くすることなく』、強度を増す」という軽量化は正しいという前提の言いまわしをしていた。
 陰謀論は嫌いだし、勘ぐるのもどうかとは思うのだが、軽量化=スピード重視&燃料費等コストダウン=危険増という真の因果関係から、なんとか目をそらそうとしているとしか思えない。
 漫然とコメントだけ聞いていると、一見反省しているように見えるところが、じつにうまく考えられている、官僚ってアタマいいね、って感じだ。
 番組の主旨である「車両を強化し、たとえ脱線しても乗客の被害の最小化を」というのは、いかにも今風のリスクマネジメントっぽくて、それ自体は理解できる。しかし、軽量化を至上命題とする行政と業界のあり方を放置することは、過去の責任を隠蔽してしまうばかりか、未来への禍根となりかねないおそれもあるのでは無いか。いくら車両が丈夫になろうと、脱線したら無事では済まないのだ。そう簡単に線路から浮き上がるような列車じゃあ、安心して乗れないじゃないか。